A close-up of a persons arm throwing a punch with a red boxing glove on a white background

映画でのパンチ音(打撃効果音)の作り方 その1/歴史・証言篇

映画、ドラマには多くの格闘シーン、ファイティングシーンがあります。闘いの場面において、打撃による殴り合いは見せ場であり、クライマックスシーンであることもしばしばです。その中で重要な役割を果たすのが、そのパンチやキックがヒットした時の音です。映像と音が合わさる事で視聴者にその衝撃、そして痛みを感じさせなければなりません。どんなに迫力あるシーンでもそのヒットした音が「ペチ」とか弱々しい音だとそのシーンの魅力は大きく損なわれてしまうでしょう。

多くの場合、そういった格闘シーンで使用されている音は、実際の現場の音のみではありません。まず役者さん同士が本気でお互い殴り合う事は難しい上に、仮にそうであってもその音を録音する事は大変難しい。打撃音を収録するのに良い位置までマイクを入れようとすると、多くの場合撮影している映像の中にマイクが映ってしまうでしょう。よって、映像を撮影した後に効果音を足していく事になります。この打撃音の作り方には、たくさんのサウンドデザイナーの方々の創意工夫がありました。リアリティを追求した痛みを感じる音、映像の迫力をより増幅する衝撃音。映像のクオリティやリアリティラインに関わるとても重要な一要素なのです。

どのように映画の中で、打撃音が進化してきたのか。また、どんな風にそれらの音が作られているのか。そして、それらを参考に実際に自分たちのできる範囲でパンチ・打撃音を制作してみようというのが今回の企画です。制作した効果音については、効果音フリー素材ページで配信中です。まずは、歴史・証言篇です。

初期の映画製作にでも、すでに効果音を後から加えるという事は行われていたようです。
 

初期のフィルム内においてもパンチ音は同時に録音されたものではなく、後から加えられました。生の音はやはり幾分退屈であるため、初期のフィルムメーカーはより映像をスリリングな物にする為に工夫を加えました。長く「ザ・ハリウッド・パンチ(ハム肉をたたく)」や「ジョン・ウェイン・チン・サウンド(ベルトのむち打ち)」とよばれた効果音です。昔の西部劇では、無法者達の殴られる音にはビリヤードの玉がぶつかる音が使用されましたし、カンフー映画では、竹を板にたたきつける事であの独特の打撃音を作りました。

映画制作が洗練されていくにつれて、サウンドデザイナー達はいつもの使い回した効果音をライブラリーから引っ張ってくるだけではなく、より違った打撃音を工夫するようになりました。マーティンスコセッシの「レイジングブル」は衝撃でした。サウンドデザイナーの Frank Warner はこの映画のファイトシーンのパンチ音を作るのに動物のうめき声や金属のぶつかる音をミックスして、新しいサウンドを作りました。彼がこのサウンドメイキングの秘密を明かさなかったのは有名な話です。

 
確かに、打撃音というのは思った以上に繊細だと思います。やり過ぎるといかにも後から足しましたという感じになり、シーンが嘘っぽくなってしまいます。かといって、現場音だけを使用すると思っている以上に迫力がなく、十分に映像の力を引き出せなかったりします。それでは、実際のサウンドメイキングはどうやっているのでしょう。
 

Leslie Shatz (サウンドデザイナー ファーナス/訣別の朝 Out of the Furnace )

「パンチ音を思い浮かべる時に私達が映画で聴き、慣れ親しんでいるのは実際のパンチ音ではないんだ。代表的なのは、濡れたタオルを壁に叩きつけた音で、時にはそれに鉛筆の折れた音を加えて骨の感じを出すんだ。」「ファーナス/訣別の朝で、僕たちのチームはよりよいパンチ音を作る為に色々な事を試した。マーシャルアーツの選手を呼んで、彼が実際の人間を打撃する音を録るだけでなく、彼にいろいろなものを殴ってもらった。ピザ生地の固まりや、濡れたタオルの上に置いた肉の厚切り、ウォーターメロンとかね。骨の砕ける音を再現するのに、貝の形をしたゆでる前のパスタ麺を使ったりしたね。」


 

Scott Gershin(サウンドデザイナー 「パシフィックリム」では巨大ロボットのパンチ音も制作)
「僕は、凍った七面鳥を使ったりする。肉類はスナッピーないい音がするけど、少しだけ凍らせた七面鳥はもう少し固いんだ。手には木の棒を握り込む。一緒に骨の音も少し聴きたいからね。マイクは少し空洞がある状態を作り響かせる。そうすると自然にコンプレッションがかかって、骨のサウンドが馴染むんだ。」

Mark Mangini (サウンドデザイナー 「ストリートブファイヤー」)
「同僚達とロサンジェルスの近くの農家から、豚を買ってきたんだ。これはあまり良くない事なのだろうが、その豚を殺してレコーディングスタジオに運び込んだ。それから4時間、バットや、鉄パイプ、レザーグローブをした拳、もちろん生身の拳でも叩いたんだ。頭、あばら、尻などあらゆる場所をね。そうやって色々な種類の打撃音を録音したんだ。」
「私たちは、セロリや、青唐辛子の音が大好きだよ。すごくいいクラッシュ音が録れるんだ。ダブルトラックを使って、ハムを叩いた音とそれらをミックスすると顔面を砕くような音を作る事ができるよ。スイカもいいね。スイカをなぐると潰れるような、血の感じも表現できるよ。」

Wylie Stateman(サウンドデザイナー クエンティンタランティーノ作品の多くを担当)
「パンチの音はインパクトだけが重要ではないんだ。拳の速さだったり、腕のまわりの衣服の音も重要なんだ。例えば西部劇の服装は、ボクシングやマーシャルアーツのウェアと全く違うんだ。西部劇の場合は上質ななめした牛革の軋んで擦れる音をおすすめするよ。マーシャルアーツのパンチを聴くと、まさにすごくスピードのある音だね。自分にとって初めてのマーシャルアーツだった「キルビル」では布地屋に行き、すごく古い着物の生地を手に入れたんだ。それらをこすった音を混ぜ合わせる事で、そのウェアの感じを表現したんだ。」


 

こうやって見ると、肉、野菜、果物などが多く使われています。一つの打撃音に、いくつもの音が重ねられてることも当然あり、ボディへのパンチに「ドサ」という重い物が落ちる音が加えられたり、CG やスーパースローを使用したシーンではバスドラムの音や、監獄のドアがしまる音が加えられることもあります。こうやって見ると、映画がどれだけディテールにこだわって作られているかも垣間みれます。

それでは、次回実践編では実際にこれらの音を作ってみようと思います。さすがに牛一頭は無理ですが、普通にスーパーにありそうな素材も多いです。果たしてどこまで迫れたでしょうか。こちらでどうぞ!
 

映画でのパンチ音 (打撃効果音) の作り方 その2/実践篇
 

引用記事 The Sweet Science of Punch Sound Effects

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